心まにまに

10年ごしの忘れ物

学校に茶封筒が届きました。

分厚くて、なにやら固い物が入っています。差出人として『小学校卒業生』と書かれています。

封を開けると、中から一冊の本と、封筒が出てきました。

本は高学年向きの物語で、背表紙には本校の管理シールが貼られています。

封筒の中の手紙には、このように書かれていました。

 

「謹啓 なによりもまず、お詫びを申し上げます。」

 

…なにごとでしょう?

 

「先日、実家で部屋を整理していると、この本を見つけました。10年前、私が在学中に学校で借りたままの本を今になって見つけた次第です。本来ならお詫びをするべきではありますが、匿名で返却することをお許しください。誠に申し訳ございませんでした。これからも、貴校の発展をお祈りいたします。…」

 

なるほど、そういうことですか。

 

ていねいな手紙に、こちらまで恐縮してしまいました。

借りた本を返し忘れることはよくあることです。

「先生、ごめんなさい、忘れてました!」と持ってきてくれれば、きっと懐かしい話に花が咲いたのに…。

そんなことも思いましたが、この卒業生にも事情や思いがあるでのしょう。

精一杯の誠意を見せてくれたのだと思います。匿名の卒業生さん、たしかに本はあずかりましたよ。

 

10年前の卒業生ということは、大学を卒業する年頃でしょうか。

「実家で部屋を整理して」ということは、これから新しい生活が始まるのでしょうか…。

そんなことを勝手に想像しました。

そうであるなら、新しい門出に小学校のことを思い出してもらえたのは嬉しいことです。