心まにまに

教えていただく

私が新任の頃に担当した部活動は『栽培部』でした。

校内に咲く花のお世話が主な仕事です。

しかし、植物を育てた経験も知識も殆どない私は、同じく栽培部の担当、仲谷清副校長先生の小間使いのようになっていました。

 

ある日の栽培部の活動中に、仲谷先生が
「神吉くん、イショクゴテを持ってきてくれるか」
と仰いました。イショクゴテ…、なんだ、それは?
「あの、イショクゴテって、何ですか?」
おそるおそる尋ねると、
「きみは、イショクゴテも知らないのかね!?」
と叱られてしまいました。イショクゴテというのは…

 

 

はい、これです。
スコップ、地域によってはシャベルと呼ばれるものです。
漢字に変換すると『移植ごて』、なるほど。


また、別の日の栽培部で、仲谷先生が
「神吉くん、ネホリを持ってきてくれるか」
と仰いました。…ネホリ、また分からない。
「あの、ネホリって、何ですか?」
と尋ねると、
「ネホリも知らないのか!」
と言って持ってこられたのが、これ。

 


「いや、それは移植ごて!」…と言う勇気はありません。
漢字では『根掘り』、はい、たしかにそうです。


仲谷先生は理科、とくに植物を専門に研究してこられました。

近づき難いオーラをまとった先生でしたが、叱られることを覚悟で質問をすると、ていねいに教えてくださる先生でもありました。

今でも覚えているのは、当時の栽培部で育てたゼラニウムのことです。


「ゼラニウムはね、枝を折って土に刺しとけば、そこから根を出してどんどん増えるのだよ。だから、子どもにも育てやすい花だ。葉から出るきつい匂いが虫除けにもなる。ヨーロッパのしゃれた家の窓辺にはゼラニウムの鉢植えを置いているだろう。あれは、虫を家の中に入れないためでもあるのだよ。」

 

臨海学舎では、海面を漂う海草の一つ、ホンダワラのことを教えてくださいました。

「ホンダワラはね、茎のところどころに浮き袋を持っているんだ。これがあるから海面に常に浮かんでいられる。その証拠に、この浮き袋を水中でつぶしてごらん。ほら、中から空気の泡が出てくるだろ。…ちなみに、ホンダワラの話を聞かない者は『アホンダワラ』と言うのだ。」


これがお決まりのオチになっていました。懐かしい話です。

 


先日、Googleのサービスの一つである「グーグル・レンズ」を知りました。スマートフォンで撮影した植物の写真をグーグル・レンズに通すと、瞬時でその名前を教えてくれるのです。植物に限らず、動物、乗り物、史跡、オブジェ、観光地に至るまで、何にでも対応するというスグレモノです。

これを上手に使いこなせば、ゼラニウムの育て方もホンダワラの特性もすぐに知ることができます。便利な世の中になりました。ただ、人に尋ねたり、教えていただいたりした経験を通すと、分かるだけでなく、後々まで心に残るのですよね。

どちらも大切にしたいことです。